ストレンジャーズ・ホエン・ウィ・ミート / Strangers When We Meet – ボウイ訳詞集

ストレンジャーズ・ホエン・ウィ・ミート / Strangers When We Meet - デヴィッド・ボウイ詩篇集成

ストレンジャーズ・ホエン・ウィ・ミート / Strangers When We Meet

[原詞はlyricsfreak.com掲載分より]

All our friends
Now seem so thin and frail
Slinky secrets
Hotter than the sun

僕らの友人たちは
痩せて虚弱に見えるらしい
しなやかな秘密は
太陽よりも熱い

No peachy frairs
No trendy rechauffe
I’m with you
So I can’t go on

淡い祈りなどいらない
流行の焼き直しもノーだ
僕は君と一緒に
でないとどうにもならないんだ

All my violence raining tears upon the sheets
I’m bewildered, for we’re strangers when we meet

この荒々しい感情が雨のような涙をシーツに降らせる
僕はうろたえてしまう、出会っても他人同士だということに

Blank screen tv
Preening ourselves in the snow
Forget my name
But I’m over you

空白を映すテレビ
雪の中で身支度をする
自分の名前は忘れてしまっても
君だけは心に残っているだろう

Blended sunrise
And it’s a dying world
Humming Rheingold
We scavenge up our clothes

調合された朝焼け
そして、それは死にゆく世界
『ラインの黄金』を口ずさみ
ゴミ溜めから衣装をかき集める

All my violence, raging tears upon the sheets
I’m resentful, for we’re strangers when we meet

この荒々しい感情が雨のような涙をシーツに降らせる
僕は憤慨してしまう、出会っても他人同士だということに

Cold tired fingers
Tapping out your memories
Halfway sadness
Dazzled by the new

冷たくもたげた指で
君の記憶を打ち出す
ほとんどは哀しみ
新しいものに目がくらむ

Your embrace
It was all that I feared
That whirling room
We trade by vendu

君の抱擁
それだけが恐れたことのすべて
目まいのする部屋は
売約済みさ

Steely resolve is falling from me
My poor soul, poor bruised passivity
All your regrets ran rough-shod over me
I’m so glad that we’re strangers when we meet

冷酷な決意は消え失せていく
この貧しき魂は傷めつけられても無抵抗さ
君の後悔こそ僕を踏み躙ったんだ
僕はうれしいよ 出会っても他人同士だということが

I’m so thankful, cause we’re strangers when we meet.
I’m in clover, for we’re strangers when we meet.
Heel head over, cause we’re strangers when we meet.

感謝するよ、出会っても他人同士だということに
幸せをかみしめている、出会っても他人同士だということに
形容し難いくらいさ、出会っても他人同士だということは

Strangers when we meet. (x9)

出会っても他人同士なのだから

訳詞にあたって

『Outside』の最終に収録された「Strangers When We Meet」は救済か、それとも絶望に打ちひしがれたメロディなのか。『The Buddha Of Suburbia』と再録音した『Outside』のヴァージョンではサウンドから伝わる感情表現がずいぶん異なるけれど、後者はよりボウイの思い描いたイメージに近いアレンジが成功してアルバムのラストを飾るべく加えられたものと思われる。

男と女の間に横たわる親密な記憶と感情の機微を歌ったものとして訳したのは、サウンドトラックを手がけたBBCドラマ『The Buddha Of Suburbia』の原作者ハニフ・クレイシの同名の短編にインスピレーションを得たと推測できるため。だがハニフ・クレイシといえば、個人的にはパトリス・シェローが2001年に映画化した『インティマシー/親密』という作品のイメージをいついかなるときも重ねてしまう。毎週水曜日に会いセックスをするだけのジェイとクレア。ある日ジェイはいつものように自宅でセックスをし終えたあと、帰るクレアの跡を密かにつけた。彼女が地下劇場の舞台女優であることを知り、その劇場で彼女の夫に出会い、といった筋書きなのだが、言葉もなくドラマらしい出来事もなくただ淡々とした描写のなかで人間模様が浮き彫りになってくるあたりがいい。日本では性描写のためR18に指定されてしまったが、本編では「Sweet Thing – Candidate – Sweet Thing(Reprise)」も流れてくるし(サウンドトラック収録)おすすめします。

そしてミュージック・クリップのほうではキャベツ人形のような踊り子、暴力と破壊衝動といったモチーフがD・W・グリフィスの名作『散り行く花』(1919年)を彷彿させます。というかボウイは『散り行く花』をまちがいなく好んでいたでしょう。映画史上最も美しいリリアン・ギッシュのあの笑顔、支那人リチャード・バーセルメスの不浄なる愛。彼らもまた出会っても他人同士だったのでした。

死にゆく世界でワーグナーの『ラインの黄金』を口ずさむこと、そして出会っても他人同士だということ。それらを知りながらうろたえて生きる人々にとって、この歌はいつまでも救いとなるのではないでしょうか。